リリース
構成・文/大庭 可南太 1974年生まれ。40歳を過ぎて突如ゴルフにハマり、米国の伝説のゴルフ理論書と言われる「The Golfing Machine」を日本で初めて翻訳。はてなブログ「ザ・ゴルフィングマシーンを勝手に解釈していくよ」の他、「PCM」でも「人はゴルフをする機械になるか」を連載中。

はてなブログ「ザ・ゴルフィングマシーンを勝手に解釈していくよ」

https://www.golfmechanism.com/aboutthisblog

第3話 アイアンとは何か(その3)

ゴルフってほんと「逆」になる

ゴルフというのはしばしば人間の感覚とは逆の結果をもたらす。スライサーがボールが右に曲がるのを嫌がってアドレスを左向きにしていくと、よりカット軌道が強くなってさらにスライスするというのは誰でも一度は経験あるいは目撃していることだと思う。 おそらく道具の世界でもそのような事態が発生していたと私は考えている。というのは初期の木製のクラブは、中央部分が凹型に湾曲している。あくまで感覚的にはこの方がフェースのどこに当たってもヘッドの振り出し方向に飛ぶような気がする。実際にアイスホッケーのスティックなどは現在でもそのような形状をしているので、理論的に完全に間違っているというわけではない気もする。しかし現在のウッドクラブは逆に、バルジ、ロールというものがついていて、フェース面が凸型になっている。この方がギア効果を発生させるために、結果としてスイートスポットを外したインパクトになった際に発生するスピンが、方向性を補正する効果がある事が発見(偶然という説あり)されたからである。

「Search for the Perfect Swing」P118より。オフセンターインパクトによってギア効果が発生する仕組み。

前回の記事で書いた通り、初期のアイアンはその形状から想定するに何らかの特殊なライに対応するために開発されたと考えられる。しかし結果としてそれらはあまり使い勝手の良いものではなかったと思うのである。

出典:

http://www.golf-lab.jp/golfpedia/history2.php

櫛のようにギザギザのクラブなどは、「何とかして砂や草の抵抗に負けずにボールだけを掻き出したい」という意欲は伝わってくるのだが、現在の感覚でこれを打ってみろと言われれば、地面にこのフォーク状のソールが突き刺さるイメージしか持てない。ジーン・サラゼンが発明したと言われるサンドウェッジは、(皮肉なことに)逆にソールにバウンス角を付けて、「砂の抵抗が増すことで地面にヘッドが潜り込んでいかないことでボールを掻き出す」という逆転の発想のものであった。 またラフの草を切って、ボールだけをヒットするという発想からバターナイフのような形状のものも作られているが、これもおそらく使いづらいと思うのである。前回も触れたが、この時代の接着技術ではどうしてもホーゼルの長さが必要になり、そこの重量を配分するためにヘッドの重心はかなり高く、またネックよりになってしまうと思うのである。おそらくフェース上にスイートスポットを配置出来ないので、インパクトで当たり負けしないためには限りなくネックよりでボールをヒットしなければ真っ直ぐ飛ばなかったのではないだろうか。

「鉄」って実は良くない?

しかしこの時代に様々な試行錯誤を繰り返したことで、鉄という素材の加工利便性と、それゆえの設計自由度に人々は気づいていったのではないだろうか。とりわけロフトという概念についていえば、ロフトを付けることでボールには斜めに衝突するフェース構造のため、ネックにはかなりのねじれ負荷が発生するはずだが、木製と違い強度の強い鉄製のクラブであればその設計自由度は増したはずである。さらにフェースを上方に拡げることでフェース内にスイートスポットを作る、あるいは慣性モーメントを増やすという工夫も進んだかも知れない。私がこう思うのは、現在のアイアンの形というのは、明らかに「そんなところで打てないでしょ」というところまでフェースが拡がっているからだ。
クラブの進化と平行して、重心位置の高いアイアンでパワーロスの少ないショットをするためには、上から入れる技術、つまりダウンブローと言われるような打法の進化も進んだのではないか。結果としてライの悪い状況でもボールにフェースを直接ヒットさせることで望ましいコントロールを達成することに成功したのではないだろうか。当初の目論見とは違った形状かもしれないが、「ウッドでは不利なライに対応する」というアイアンの目的にかなり近づいてきたのである。 さらに鉄製のクラブによって、ロフトを寝かせて打ち上げ角度を変化させることで飛距離をコントロールすることを考えるようになると、おそらく平行してボールにバックスピンがかかるということにも気づいたはずである。というのはフェースに溝やパターンを作ってバックスピンが増加する作用を狙ったと思われるアイアンも多数現存しているからである。これも皮肉な事に、実際にはフェースがつるつるでも、一定量以上の強さのインパクトではボールとの摩擦によって相当量のバックスピンが発生することが現在ではわかっている。 いずれにせよ、こうしてゴルファー達は、クラブの長さ、ロフト角、バックスピン量という、現代のゴルフに共通するスペック面を調整することで、ゴルフという「ゲーム」に挑戦することが可能になったのである。こうなればアイアンはもはや「悪いライからのお助けクラブ」ではなく、通常のゲームに必要な「戦略的なクラブ」としての地位を確立するのにさほど時間はかからなかったのではないか。 以上で私の妄想「アイアン進化の歴史」については終わりにしたいと思うが、いよいよ次回以降で、これら進化の歴史を踏まえた「アイアンの存在意義」について考察を進めたい。

(続く)

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