リリース
構成・文/大庭 可南太 1974年生まれ。40歳を過ぎて突如ゴルフにハマり、米国の伝説のゴルフ理論書と言われる「The Golfing Machine」を日本で初めて翻訳。はてなブログ「ザ・ゴルフィングマシーンを勝手に解釈していくよ」の他、「PCM」でも「人はゴルフをする機械になるか」を連載中。

はてなブログ「ザ・ゴルフィングマシーンを勝手に解釈していくよ」

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ボールを「止める」ということ

唐突だがこんな状況について考えてみて欲しい。長めのPAR4、第一打はフェアウェイセンターに置くことが出来て、第二打はピンまで180ヤードの距離。しかしピン位置はグリーンの手前側で、グリーンは奥から急激に早く、グリーン手前にはアゴの高いガードバンカーが待ち受けており花道から転がしてのグリーンオンは望めそうにない。今日のグリーンは硬く、早く、奥に付けてしまうとパットがガードバンカーまで転がってしまうかもしれない。 こんなとき、アナタならどうします?おそらく180ヤードというのは、単純に距離だけを考えればほとんどのプレイヤーが「飛ばせる」距離ではないかと思う。だがここでは上記のような条件のもと、最も少ないスコアで上がるための選択が必要になる。 「ぼくだったら180ヤードは6番アイアンでぴったりだね」という方。あなたがドライバーを280ヤード平均で打てるプレイヤーではない場合、ちょっとその選択は成功しない可能性が高い。運が良ければバンカー手前にショート、運が悪ければバンカーに突き刺さって目玉になるのがオチだと思う。 「ここは7Wで高さを出してグリーンを狙う」という方。つまり「ガードバンカーは超えるけれども、奥にも付けすぎないという絶妙な距離感と方向性と高さでフェアウェイウッドを操ることが出来る」ということになるので、女子のトップ選手くらいの技量があるということになる。 男子のPGAなんか見ていると、こういう状況でも平気で7、8番アイアンくらいでクソ高い球打ってピタッと止めるボールを打ってくるのでつい勘違いしてしまいがちだが、こんなプレッシャー要素の多い状況でピンを狙うというのはほとんどのアマチュアには(確率論としては)不可能なのである。 だからこそ、我々はプロのアイアンショットを見て「カッコいい!」と思うのだ。異常に長いターフを取り、コンパクトなフィニッシュで打ち出されたボールがピンの根元に着弾して、奥からバックスピンで戻ってくる。こんなボールを操って毎ホールのようにバーディパットを打つ、なんてゴルフが出来るならば、もう言葉はいらない。ただゴルフをしているだけできっと同伴者はセンボーのまなざしでそのプレイヤーに見とれるはずだ。
さて前回の記事では、アイアンという鉄製のクラブを使用することでロフトが寝かせられることで、当時のゴルファーはボールの高さを調整出来る事に気づいたが、同時に当時の高重心のアイアンを使うためにはそれに適した打法、すなわち上から入れるクラブの使い方についても研究が進んだのではないかと考えた。 ここに至って、現代のゴルフのカッコ良さの最重要要素とも言える、「バックスピン」というものの存在に気づくことになったのではあるまいか。 そもそもウッドというのは、飛距離をロスしないためにはなるべく余計なバックスピンは発生しない方がいい。
一般にバックスピンの量は、クラブヘッド軌道とインパクト時のフェースの向きの乖離が大きいほど多くなる。よって重心を低くして、運動エネルギーが素直に飛距離に転換されるように作られているのが現代のウッドクラブである。
一方アイアンクラブは、ウッドクラブに比べて重心がやや高く、ロフトも寝ている傾向になる。この乖離によって、ボールの高さに加えて適度なバックスピンを加えられることが要求されるようになっていった。バックスピンの目的は、もちろんグリーンの狙ったところに「止める」ことにある。

コース攻略法としてのアイアン

こうしてウッドで「飛ばし」て、アイアンで「止める」という現代のゴルフに近いコースの攻略法が確立されてきた。90年代に入るまでアイアンは3I〜PWの8本セットが主流であったようである。ベン・ホーガンの「パワーゴルフ」など読むと、かつては当然1番、2番アイアンというものが存在したが、当時のアイアンは今よりもロフトが寝ているので、当時の1番アイアンのロフトは18°程度であった。思えば7Wというような20°付近のロフトのウッドが出始めたのはわりと最近のことと記憶しているので、やはりウッドでロフトが寝ているものを作るのはそれなりに高度な技術が必要であったために、ロフトによってウッドかアイアンか棲み分けされていた時代が長く続いてきたのだと思われる。 しかし現代ではさらなる技術の進歩によって、ウッドとアイアンの中間の性質であるユーティリティ(海外ではハイブリッド=「あいのこ」の意味)や、アイアンの形状でありながら低重心化した(ウッド的な性質の)アイアンモデルも数多く販売されている。冒頭の残り180ヤードの状況ではユーティリティを選択するプレイヤーが現在では多数派ではないだろうか(とは言え結果を見る限りみんなが180ヤードをグリーンオン出来ていないことも確かだが)。

それでもアイアンを使う意味

こんな文章を書いていてミもフタもないのだが、私は遠くない将来、アイアンというクラブは絶滅危惧種になると思っている。技術の進歩によってロフトの寝たユーティリティはいくらでも作れるようになるだろうし、そのほうが圧倒的に楽に飛距離を稼げる。現代のゴルフ人口の高年齢化を考えれば、飛距離が落ちてもパーオンを狙える道具がマーケットの中心になっていくと思うのだ。 うっかり忘れかけていたが、この記事は「シングルレングスアイアン」の優位性を探究する目的だったはずなのだが、通常のアイアンですら絶滅の可能性があるのに、こんなある種キワモノのアイアンが生き残れるのであろうか。企画の危機を感じつつ、次回ではアイアンに求められる事が何か、つまりついに、やっと、「アイアンとは何か」をまとめていきたい。

(続く)

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