リリース

文:大庭可南太

1974 年生まれ。大学卒業後自動車メーカー、外資系コン サルティング会社、その後アパレルメーカー、専門学校で の 事 業 開 発 な ど を 経 て 2 0 1 1 年 に イ ベ ント 運 営 の 会 社 を 設 立(要するにバラバラ)。 40 を過ぎて突如ゴルフにハマる。「PCM Labo」研究生

ザ・ゴルフィングマシーンを 知っていますか?

 The Golfing Machine(以下 TGM)は 1969 年にアメリカで出版された伝説のゴルフレッスン本で ある。直訳すれば「ゴルフをする機械」ということ になるが、人間がストロークを行うための部品(コ ンポーネント)は全身に24 個あり、さらにそのコンポー ネ ント に は 複 数 の バ リ エ ー シ ョ ン が あ り 、 ゴ ル フ ァ ー は そ の 組 み 合 わ せ で 自 身 の ス ト ロ ー ク を 構 成 し て い るというものである。その全文の内容を私のブログ 「ザ・ゴルフィングマシーンを勝手に解釈していくよ」(http://www.golfmechanism.com)に公 開して いる。

 年代的には「古典」とも言える書籍だが、実は 現代のスイング理論あるいはスイングの分析手法 の源流であり、特にアメリカのゴルフ界ではツアー プロ、コーチ共々なんらかの形でこの本の影響を 受けていると言っても過言ではない。などと偉そ うに紹介をしているが、私自身がこの本の存在を 知ったのは昨年の 4 月、TGM の信奉者であると いうブライソン・デシャンボーがマスターズでローア マチュアを獲得した際の紹介記事でその存在を 知ったのである。

  私がゴルフに熱中するようになったのは三年余り 前 で あ る か ら 、 私 は ゴ ル フ に 関 し て 全 くの 「 ど 素人」 である。そんな私が、こんな日本で(世 界で?)もっともマニアックなゴルフ専門誌に記事 を書いているのだから人生は何が起こるか分からない。
 25 歳のとき、会社の部署でコンペがあるという のでゴルフを始めたが、転職を機にやめてしまい、 10 年くらいゴルフからは離れていた。もともと大学ま でテニス部で 30 歳からはサッカーを始めた。41 歳 になってゴルフを再開したのは、まぁ当時口説いて いた女性の趣味がゴルフだったからだが(動機な んてそんなもんだ)、生来の凝り性である私は次第 に「このスポーツを基本から徹底的に研究したい」と考えるようになった。

  ほぼ全ての技能の習得に関して、「4,000 時間くらい『 基本 』から外れずに練習すればある程度 は上級者になれる」という法則がある。例えばテ ニスで言えば「ラケットと腕の角度を適切にキープ して、面を長く目標方向に押し出す」とか、サッカーで言えば「サイドキックは足首の角度を適切にキー プしてくるぶしの下のあたりでミートして目標方向に 押し出す」とか。これらが出来ないと何も始まらな いのであり、上達の為の最短距離上に存在する真 理こそが「基本」であると言える。 ではゴルフの「基本」は何であるのか。調べて いくと、大抵のサイト、書籍でグリップとアドレスの 話から始まる。確かにグリップしてアドレスしないとゴ ル フ は 始 ま ら な い 。 し か し 、 そ こ か ら 先 は 突 然 「 身 体 と ク ラ ブ を 同 調 さ せ て 振 る 」 と か 「 力 ま ず ヘ ッド を 走らせる」とか、なかなか高度と思われる記述になっ ていたりする。

  また、どうもゴルフレッスン界では「独自のメソッド」 というものに重きを置く傾向があるようだが、そもそ も「独自の」手法とは定番の「基本」の上に成 り立つものではないのか。「巨匠のオムライスはここ でこんな一手間、これぞプロのワザ」みたいな「独 自の」手法に対して、こちとら完全な素人なので「ま ずメシの炊き方から教えて欲しいのですが」とか思 いつつ、仕方なくベン・ホーガンやレッドベターなど の有名どころを読みあさる日々が続いた。そしてあ る日、TGM の存在を知ったのである。

TGM の 「ゴルフの基本」

 本の名前で検索をすると、日本語のサイトはどれ も断片的で今ひとつ内容が伝わってこない。仕方 なく海外サイトでいくつかの「まとめサイト」を調べ ていくと、TGM で言うところの「ゴルフの基本」と は主に次のようなものであることがわかった。 「左手首の甲(右利きの場合)はフェース面の 向きを表しているのであり、インパクトで甲側に折れ曲がることはない(フラット・レフト・リスト)」 「ゴルフは様々な回転運動の集合体であるが、 ボールにどれだけ直線的な圧力を長い時間かけら れるかで、飛距離と弾道が決まる(ライン・オブ・ コンプレッション)」

  おや、なんかこれテニスやサッカーの基本と似てな いか?「どうもホンモノっぽいぞ」そう感じた私は邦 訳版を探したがどうしても発見できない。それもその はずでこの本は未だ邦訳されていなかったのだ。 TGM の邦訳がなく、日本語で解説しているサイトも少ないとなれば原書を読むしかない。アマゾンで 購入することは出来るようだが、中古出品なのに 1万円以上もする。次にレビューを読むとひたすら「難 読」と書いてある。アメリカ人が難読というものを、 日本人の私が読むことが果たして出来るのか。

  数日間迷ったあげく、結局私は TGM 原書の「購 入する」をクリックしたのである。値段は 12,000 円 程度だったと思う。

 私 が 英 語 を 覚 え た の は 会 社 に 入 って か ら で 、 さらに数年後に会社が買収されドイツ人の上司 が 来 て か ら 必 要 性 に 迫 ら れ て 本 格 的 に 英 語 を 勉 強 し た 、 つ ま り 後 学 で あ る 。 海 外 駐 在 す ら 経 験 していない。

 数日後に届いた黄色い表紙の TGM 原書を読 んでみると、その文章が主に意味するところはよく 分からないが、「気持ち悪い」ことだけはよく分かる。 TGM の英語はどう見ても「主旨をはっきりさせる」 という大原則から逸脱した言語なのである(後で 知ったが、アメリカには「ところで英語で書かれた TGM はないのか?」というジョークがあるらしい)。 当初は翻訳サイトか何かで直訳したものを再構成 すれば読めるのではないかと思ったのだが、逆に 吐き気をもよおす文章が出てきてどうにも読み進める ことができない。

【「The Golfing Machine」とは?】

米国ボーイング社にて航空機の技術者だったホーマー・ケリー (1907-1983) が、幾何学と物理学の側面からゴルフスイング を説明すべく、約 30 年にわたる調査・研究の末 1969 年に 発表した書籍。 現在でも多くの支持を得ている一方、難読で あることから「ゴルフ史上最大の奇書」と呼ばれている。

 英語を勉強していた時の講師でロバートという男 がいた。彼はカリフォルニア出身であるが、日本文 化と日本語の魅力に取り憑かれ、日本の大学で言 語学者として講師をしていた。

 彼いわく、「日本語はすごいよ。漢字や外来語 を取り入れても全く表現の独自性を失っていない。 そのうえ『行間』や『空気』が読めるなんてこん な高度な言語はない。だから世界でいちばん異文 化コミュニケーションの潜在能力を持っているのは 実は日本人なんだ」

 ロバートの言ったことが真実なら、例えどんな難 読の言語であろうとも日本語として意味の通じる文 章にすることが可能なはずだ。ならば、もしかする とアメリカ人よりも日本人のほうが TGM を読めるの ではないか?

「TGM は、逆に日本語に完訳をすることで読破 出来る」という仮説に至った私は、この翻訳作業を ブログの形式で行っていくことを考えた。多少なりとも読者がつけばそれもまた続けていくチカラになる。 また決めごととして「自分が分からないことはとり あえず『分からないまま』にして先に進む」ことを 守るようにした。解読が進んで、分からなかった部 分が分かるようになれば、そこに戻って書き換えれ ばいい。

 ブログ中 TGM 本文の訳は、著者であるホー マー・ケリー氏(ブログ内では「爺」とされている) の 発 言 、そ れ に 対 し て ツ ッ コ ミ や 解 釈 を 行 う「 お い ら 」 という(ブログ内では区別のため赤い字で表示し ている)二つのキャラクターの掛け合いという形で 進行することにした。

 ブログの題名である「ザ・ゴルフィングマシーン を勝手に解釈していくよ」の「解釈」は英語で言 えば Interpretとなり、これは Interpreter= 通訳 の動詞形でもある。私が私自身に向けて TGM を 日本語に通訳していくという意味である。

 「勝手に」としたのは、誰も訳してくれていない ので勝手に訳していくということでもあるが、当然の ことながらこの行為は本来であれば海外著作の無 断翻訳にあたる。調べたところ、「1970 年以前の 海外著作でその後 10 年間日本語訳の出版がない 場合、誰でも自由に翻訳、出版が出来る」と法令 で定められているようである。とは言え、私は出版 やそれにまつわる法律のプロでもないし、単純に自 分の探求心からこのようなことを始めたのでそれを「勝手に」としたのである。

 「とにかく進む」をモットーに、ブログは昨年(2016 年)の 9 月末から開始し、完璧ではないものの現 時点でなんとか 90% 以上の訳が進んでいる。全 文が終了するのは 2018 年 2 月頃と想定している。

なぜいま TGM なのか

 TGM ではゴルフストロークの「必須事項」として前述した「基本」を定義しているほか、冒頭で も述べたように、ストロークの構成要素を 24 個のコ ンポーネントに分解し、それらが適切なバリエーショ ンの組み合わせで、互いに連携しながら機能する ことで個々の最適なストロークを実現できるとしてい る 。そ う い う 意 味 で は T G M は 医 学 の 中 の「 解 剖 学 」 にあたるが、それを探求することが最終的に「健康」 を取り戻すことに役立つのであるから、広義のスイ ング理論と言える。しかし、より適切な表現をすれば、TGM とは「体系」=「システム」の書である。

 将棋に例えれば、各駒の動き方などのルールから、 その長い歴史において編み出されてきた様々な戦 法を「体系化」したものであり、その中でどのよう な「棋士」を目指すのかは個人の選択に任されて いる。一方、ある高名な棋士が「オレの振り飛車 戦法」という本を書けば、これは「メソッド」になる。 後者は主旨が分かりやすく、現在の日本のゴル フのレッスン本もほぼ全てがこの「メソッド」であると思われるが、果たして日本のゴルフ界でこれらの メソッド群を「体系的に捉える」という作業は行われてきたのだろうか。


 ゴルフのギアの世界に目を向ければ、そこには明確な規則がある。様々な技術や素材の変化・発展はこれからも続くであろうが、それはあくまで規則という「体系」のもとに発展していくものだ。

 PCM の読者諸兄は、日々こうした新しい技術や 情 報 を 整 理 し 、顧 客 の 要 望 に 最 大 限 応 じ る べ く 「 最 適」なギアのセッティングを苦心して考えておられる ことと 思 う が 、 当 然 な が ら ゴ ル ファ ー の ストロ ー ク 側 に関しても、その身体の使い方に「最適」と思わ れる組み合わせがあるはずで、その両面を追求し て い くこ と が 必 要 で は な い だ ろ う か 。

 再び医学に例えれば、ある人が事故で入院したとする。手術をする、投薬する、あるいは松葉杖 や ギ プ ス を 提 供 す る と い う 外 的 な サ ポ ートと 並 行 して、術後のリハビリやトレーニング、あるいは食事を含めた生活習慣の改善など患者側の内的な努力とそのためのサポートが必須となる。そして内外二 つのサポートは、過去の数々の事例や研究結果に 基づき、連動して効果を発揮することが理論的に 期待できるものであるべきだ。

 おわかりと思うが、ゴルフに話を戻せば、外的な サポートがギア側面であり、内的なサポートがスト ロークの改善にあたる。入院の例にてらせば、こ れらは本来別々に考えられるものではなく、ギアを フィッティングするのであれば、ストロークもそれに併 せて最適化することが効率的なはずだ。

  総合病院として、レッスンもギアも可能だというと ころもあれば、診察をして処方箋を書くように、そ れらは分業するのかもしれない。しかし、そのため には医者と調剤薬局の間で体系化された「共通 の言語」が必要だ。

  例えばレッスンを行ってストローク側の分析を行い、今後の方針としてこのコンポーネントをこのよう に変更していくことで、このようにヘッドスピードが上 がる、その変化を想定してギアではレッスンプロの 処 方 箋 を 基 に 、A , B , C , の 道 具 を 試 打 し て 頂 く 、と い っ たことが可能になる。

  そしてほとんど全てのゴルファーは、慢性的に患 者である。つまり「もっとこうなりたい」という欲求 を常に抱えている。あるいはギアとストロークの双 方 の 「 体 系 」 の 理 解 が 進 む こと で 、 現 状 の 大 多 数の「飛べばそれでいい」という意識にも変化が 生まれるかもしれない。

そして PCM

 実はこの文章は、先日 PCM ラボにお伺いして 議論をさせて頂いた内容と、私のこれまでの作業 の総括を交えて作成したものであり、私一人で考 えたものでは決してない。

 ある日、私のブログのメールアドレスにご連絡を頂き、引越し後間もないPCMラボで、様々な計測器、貴重な書籍群、歴史的な道具類、そしてPCM誌でも紹介されている最新スイング解析器「GEARS」などを拝見、ご説明を頂いた。だが、私のような素人をこのようなゴルフ博物館にご招待頂いたのかを自分なりに消化して文章化したものが本文である。

 P C M ラ ボ に は 、 古 今 東 西 あ ら ゆ る ギ ア の 測 定 データがある。そして PCM 誌上でも紹介された「 G E A R S 」 と い う ス イ ン グ 解 析 器 や 、 ク ラ フト マ ン、インストラクターをはじめ様々なプロフェッショ ナルが 集 結している。これらが 有 機 的に機 能 す れ ば 、 日 本 中 に 上 記 の よ う な ゴ ル フ の 総 合 病 院 が作れるかもしれない。なんと言っても日本のゴルフ場の数は米国、英国に次ぐ世界第三位であ流。国内のゴルフ市場の再興はもちろんのこと、アジア圏からゴルファーが大挙して押し寄せる可能性だってある。

 今後も計測器が進化することによって、病院の「検査」 精度は確実に上がる。医者として機能 できるインストラクターの育成、その共通言語とし て機能するスイング理論体系の構築をする土壌が 育たないようであれば、日本はゴルフだけではなく そのほかの分野でも後進国に成り下がってしまう のではないか。本来、こうしたアプローチは日本 人の得意とする分野であると思うし、材料は揃い つつあるのだ。

 とはいえ現状、私のような素人が上記のような問 題に対して、どのようなお手伝いが出来るのかまで はイメージが出来ていない。海外の理論のリサー チくらいは出来るかもしれない。何らかの形で、こ れからも益々マニアックにゴルフに接していこうという 決意とともに「PCM 研究生(アイドルみたい)」と して頑張っていきたいと思う。

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