リリース
構成・文/大庭 可南太 1974年生まれ。40歳を過ぎて突如ゴルフにハマり、米国の伝説のゴルフ理論書と言われる「The Golfing Machine」を日本で初めて翻訳。はてなブログ「ザ・ゴルフィングマシーンを勝手に解釈していくよ」の他、「PCM」でも「人はゴルフをする機械になるか」を連載中。

はてなブログ「ザ・ゴルフィングマシーンを勝手に解釈していくよ」

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アイアンの長さのフローという怪

これまでの議論でわかったことは、クラブを長くすることは、弾道を高くすることには効果はあるが、H/Sを上げることに直接的に作用するわけではないと言うことである。現実的には長いクラブではH/Sが上がるが、これはクラブの番手間の振り心地をそろえるために、長くするほどヘッド重量を軽くするという工夫がなされているからである。理論的にはH/Sが上がってもヘッド質量が低下するのであれば、発生する運動エネルギーは変わらない。 そしてクラブは長くなるほど操作が難しくなる。フェアウェイウッドなどはソールが滑ってくれる形状になっているとは言え、地面からのロングヒットはほぼ全てのアマチュアにとって最も難易度の高いショットだろう。そして現在、3番あるいは4番アイアンといったクラブはほぼ絶滅危惧種の状態になっている。これにはアイアンのストロングロフト化の影響もあるのだろうが。 こうして、最も正確性を確保出来るシャフトの長さで、単一長のアイアンセットを作れれば有利と考えた者がかなり昔からいたことも紹介した。ではそれらはなぜ失敗に終わってきたのかについて考察したい。

鉄という素材

話は変わるが私は新卒で自動車メーカーに就職した。そこで主に従事していたのは、海外にスペアパーツ(修理、交換用の部品)を輸出する業務だった。そこでしばしば発生した問題は、特定の部品の重量の問題なのである。 エンジンの内部に使用する部品は、その耐熱性と強度の問題から鉄製の部品が多い。鉄の加工方法はいくつかあるが、最も一般的なのが鋳造である。 鋳造は型に溶けた鉄を流し込んで作る。しかし型に流し込んでいく過程で急速に鉄が冷えるため、密度を一定にすることが難しく、また冷却過程で寸法が変わる。もちろんそれを想定して型を作るが、寸法精度を上げるためには切削が必要になり、あまり複雑な形状の部品の製造には適さない。 削り出しやダイカストと言った複雑な形状の部品を作る方法もあるのだが、コストや強度の問題で自動車部品にはほぼ使用されない。 そこで主流になるのは「鍛造+切削」である。例えばコンロッドという部品がある。ピストンで燃料の燃焼によって発生したエネルギーをクランクシャフトに伝える部品だが、猛烈なスピードで稼働する部品のため、耐熱性と強度が要求され、こうした部品は鍛造切削でしか製造できない。
コンロッド(トラック用はもっとゴツい)https://www.babyface.co.jp/carrillotop.htm
この最も強度と精度の両立が可能な製造方法でも、やはり重量誤差が出てしまう。理由は、鍛造の際の型が摩耗によってだんだん大きくなってしまうからである。最終的な外寸は切削によって同じになるが、型が大きくなると鉄の密度が低くなってわずかに軽くなってしまう。その誤差は最大で1パーセントくらいである。しかし大型トラックなどのコンロッドは、一本が7kgくらいあるので1パーセントでも70gになってしまう。コンロッドが一本損傷したからといって、一本だけ70gも重量の違うコンロッドを組み込むと、ものすごく異音の発生するエンジンになってしまう。そこで製造工程で重量を測って、10g単位で刻印をつけ、「同じか、隣の重量の刻印の部品でエンジンを組むように」とマニュアルには書いてある。完成車の場合は、同時期に作られたコンロッドで普通に組めば、自然と刻印は揃うのである。しかし交換部品はそうはいかない。 海外の顧客から「A刻印のコンロッドを一本」とオーダーされても、在庫にはE刻印とF刻印しかないということがしばしば発生する。 顧客「いつになったらA刻印の部品が出来るんだ」 私「いやそれはある種、偶然の産物だからいつになるかわからない」 顧客「じゃあどうしろってんだ」 私「悪いけど六気筒の六本をセットで交換してくれ」 顧客「ふざけるな」 このあと「廃車から抜いてこい」等の不毛なやりとりが続いた後に、最終的には「六本セットを格安で出荷する」という処置になる。 メーカー出身の私としては、自動車の部品は相当に高い精度で製造されていると信じている。特に上記のような部品は性能や燃費に直結するものであり、あるいは人命に関わる可能性もある。何が言いたいかと言うと、そのようなレベルであっても、やはり重量に1パーセント程度の誤差が出てしまうということである。 ゴルフクラブは、主にヘッド(鉄)、シャフト(鉄、カーボン)、グリップ(ゴム、樹脂)という部品から出来ているが、これらの製造でも当然のことながら重量誤差は発生しているはずである。仮に7番アイアンであればヘッド重量が270g、シャフトが100g、グリップが50g位で総重量が420gくらいだとすると、全体の1パーセントの4gくらいは誤差が生じてしまうのが、ある意味自然であると思う。にもかかわらず一般的なアイアンは、0.5インチの長さのフローに対して、7gの重量フローということになっている。これがどれだけ難しいことを要求しているかということである。

アイアンの長さがフローする理由「結論」(独断を含みます)

もちろん上記のような問題に真摯に向き合い、極力正確にセットを組んでいるゴルフクラブのメーカー、あるいは工房がほとんどであると信じたいが、現実的に難しい問題であることは間違いない。測ってみると5番と6番は2gしか違わない、あるいは10gも違うということが起きてしまう可能性は高い。いつの時代からアイアンは「3番〜PWの8本セット」を経て「5番〜PW」の6本セットというセット販売が主流になったのかはわからないが、この販売方法が主流になった理由は 「(まぁいろいろバラツキは出ちゃうんだけど)セットで販売しておけばそのうちの何本かはしっくりくるヤツがあるんじゃない?」 という「メーカー都合」なのではないのか!? そもそもゴルファーが一本買いではなく、セットでアイアンを買うということは、潜在的にはどの番手も同じ感覚でショットをしたいからそうしているのだとすれば、この事実は大きな矛盾をはらんでいることになる。 なぜこの独断に私が到達したのか。もしこれと同じ現象が単一長アイアンで発生すればどうなるのか。 「いやこの5番は416gだけど6番は424gです。でも長さは同じです。」 なんてことになったらスイングウェイトはおそらく4〜5ポイントくらい変わることになる。「全番手長さが同じなので、いつも同じ感覚でスイング出来る」 はずが、さすがに番手ごとでこれだけスイングウェイトが異なれば同じ感覚にはなり得ない。おそらく「ふざけるな」「じゃあ格安で」では済まされない。 つまりごまかしの余地が存在しないのだ。実はこの点は私がシングルレングスアイアンに期待を寄せる部分でもある。ヘッド重量を精密に同じに製造出来る、あるいは調整出来る事は、単一長アイアンでは必須である。しかしこれと同じ事をレングスフローアイアンで行おうとすれば、精密に0.5インチ7gのフローを達成しなければならないことになる。もちろん熟練のクラフトの工房で組めば可能かもしれないが、この精度をメーカー出荷時点で達成することは相当難しい。また、この精度を達成することが出来なかったことがこれまで単一長アイアンが製品として成功してこなかった理由であると思うのだ。 ではそこまで面倒をしてまで単一長にこだわるメリットは他に何があるのだろうか。次回以降はシングルレングスアイアンのメリットについて考察したい。

(続く)

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