
文・構成/猿場トール
「伝説のプロコーチ」後藤修氏が提唱する「大型スクエア打法」に傾注。ボビー・ジョーンズ、ベン・ホーガン、ジャック・ニクラウス等、古今東西のスイング技術を研究。現在、ゴルフメディアを中心に寄稿するゴルフライター。
JLPGAツアー引退する大江香織選手に伝えたい〜貴女の苦労と経験値は、指導者として絶大な資源です
賞金女王争いが激戦を極めるJLPGAツアーを引退発表した、大江香織選手。最終日最終組を回り最後まで戦い切った姿は素晴らしく、その引き際は潔い印象がありました。
大江選手は、シード当確ラインには及ばない状況ではありました。しかし、最終戦のプレーを観て誰もがQTを突破する実力は充分あると感じたはずです。
が、大江選手の引退の意思は固かったようです。
GDO「大江香織が第二ののゴルフ人生へ キャディの予定も」https://news.golfdigest.co.jp/news/jlpga/article/111620/1/?car=ranking_sidenavi_dayTour

大江選手、過酷なツアー競技生活お疲れ様でした。
大江選手のイメージは、寡黙で追求心に満ちたショットメーカー。
実は筆者は、ツアー会場で彼女の「ある挑戦」を取材した事があります。
それは、プロ入り後PGAツアーデビューしたB・デシャンボー選手が使用するシングルレングスアイアンを実戦投入するべきか?メーカーの協力のもとテストクラブをツアー会場に持ち込んでいました。
沢山の仲間たちに囲まれた最後の試合でしたが、基本的には派手な振る舞いや言動を行わず技術を突き詰める求道者のイメージが筆者には強く印象に残っています。
当時の取材時にも、多くを語らず戦うための追求にアンテナを張っている考えを語ってくれました。

プロゴルファーである前に「ひとりの人間」「ひとりの女性」としての人生も
本来、ツアープロには引退を表明する義務はありません。しかし、宮里藍選手を始め女子ツアーには、特に近年スポンサーやファンに対する感謝とけじめの意味で引退発表行う「マナー」の意識があるのではないでしょうか。
女子プロである前に「ひとりの人間」「ひとりの女性」として、我々外野の者が「まだまだやれる」「もったいない」「努力が足りない」の言葉は、応援どころか【言葉の凶器】に他ならないと思います。
一般社会でいえば、30歳前後の女性に「第二の人生」なんて言葉をかけようものなら「セクハラ」「モラハラ」「パワハラ」になるのではないでしょうか?
大江選手は「アンカリング規制による長尺パター問題」を完全に解決出来なかったことが若手の台頭より「自分自身の向上」の障壁になったのでは?技術的要因になったのでは?と考えられます。
(現役選手でいるうちは本人になかなか聞けない事ですが)イップスの種を抱えたまま決定的な解決方向が見えないまま、ここまで戦ってきた大江選手にはむしろ「尊敬に値する」メンタルと苦労が何年もあったはずです。
とにかく今は「お疲れ様でした」
大江選手をはじめとしたツアー撤退のプロの皆さんにお伝えしたいと思います。
「スイングは河が流れるように」は、プロですら難しい

パターイップスによる引退は昔から実に歴史に多く残っています。、主に「アドレスから始動が出来ないパターン」と、切り返しからインパクトにかけて再現感が出せずに、「出球の管理が崩壊する」パターンがあります。
また、ショットのスイングとパターのストロークは「別物」いや「同じ」と昔も今も賛否両論されています。しかし、静から動に移る始動するゴルフスイングの「運動連鎖」は、『同じであるべき』と唱えていたのが後藤修氏です。
1980年代〜ゴルフダイジェストCHOICE誌面で不定期連載「スイングは河のように流れる」で国内外のトッププロの世代別スイング(技術)解説を行っていました。
フォーム(形)にこそ表れてはいなくても、水が流れるようにスイングできず、堰き止めたり溢れたりの「他人から見えない違和感」を感じ何年も格闘している(スランプに悩まされている)選手は実に多く、「リード&レイト」と後藤修氏が名付けた【運動連鎖の問題】を自分で大改善することは、トッププロでさえ至難の技なのは歴史が証明しています。
現役だから見えないこともある
「選手→コーチ→選手」が出来るゴルフというスポーツ
話がとんでしまいましたが、大スランプ中のジャンボ尾崎選手が40歳を過ぎて【大復活作戦】を行った当時の決め手は、智春選手のためだと後藤修氏は証言しています。「もう引退」と諦めていた選手としてではなく一歩引いた目で自らを分析した事で『見えた事』が幾つもあったのだそうです。その後の復活劇は、周知の通りです。「自らを助く」ことになったのです。
元プロ野球選手からゴルフのプロコーチになった後藤修氏も、「現役を退いてから分かったことが幾つもあった」と後年話していました。プロ野球では復帰は非常に難しいですが、ゴルフの場合は戦う力さえあればいつでも試合に挑戦できる素晴らしい(競技)スポーツです。
追求心と経験を、いつか後進の指導に
大江選手は「名コーチ」「大復活」の資質がある、素晴らしい選手でした
大江選手に話を戻します。彼女には後進を育てる指導者としての経験値が身についている事を自覚して欲しいのです。
ツアーを離れた後、現役時代には見えなかった(或いは気がつかなかった)パター問題やスイングの違和感に対する解決策を発見する(または入手する)可能性があるのです。筆者が知り得る限り、大江選手はツアーを離れてもゴルフの求道者である予感がするのです。
仮に5年後にツアー復帰を目指してもまだ30代半ば。この試合で単独2位に入った大山選手より遥かに年下の若手です。
確かにツアー会場にずっといると、次々に台頭する20歳前後の選手の活躍は確かに目に入ると思います。
ゴルフはもともと年齢が関係ないスポーツのはず。戦えるモチベーションが体力と技術に再び戻れば、指導者から選手になっても良いのがゴルフではないでしょうか?
大江選手には、彼女の追求心から得た経験や技術を何処かのタイミングで何かしら形にして欲しいと筆者は願っています。